2018年5月31日木曜日

NHK少年ドラマシリーズ SF作品リスト前文

 昭和53年、新作「その町を消せ」開始にあわせて月刊OUT3月7日号増刊ランデヴー(みのり書房)で企画された特集
NHK少年ドラマ『タイムトラベラー』から『その町を消せ』

 の中で品リストの前文として掲載されました。

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 SFの”核(コア)”とは何なのだろう?、NHKの少年ドラマSFシリーズの総論を書こうと検討を続けていると、結局はそこに戻ってきてしまった。NHKの少年ドラマSFシリーズの良い点は、そのドラマの中にこの核を何とか固定しようとした点ではないかと思っている。
 実作に伴わねば、空論になりがちなので『なぞの転校生』という作品でその細部に触れてみよう。

 東京郊外の団地に住む中学二年生の岩田広一は、空き部屋だった隣部屋にいつの間にか越して来た少年と廊下で出会い、自己紹介して握手を求めるが、相手は妙にぎこちなく手を出そうともしない。

 やがてその少年山沢典夫は広一の同級生になるのだが、抜群の学力や運動能力を示し、そして放射能雨やジェット機の騒音に異常な恐怖を示すのだった。広一のガール・フレンド香川みどりが、典夫を慕い始めた頃、みどりや光一、それにクラス全員は、典夫の身の毛のよだつ核戦争の経験談を聞かされる…。

『(暗転)僕たちはこの世界なら核戦争は起きないだろうと思った。誰か核戦争の怖ろしさを知っているか、知らないだろう、君達は。(宙を、遠く見つめ)(かぶる爆発、飛行音)
 きらめく輝光、倒れる何百万の人々、苦しみながらコンベアの上を流れていく男女、刻一刻と迫ってくる死の灰、狂ったように飛び立っていく……血だ! 焼けただれた裸だ! あの暮れいく空に突っ立っているのは桃色に光るキノコ雲だ!(錯乱し)助けてくれ!(頭をかかえてうずくまり)僕は、逃げて、(絶叫する典夫)逃ゲテェ!!』

 自分の世界が核戦争で破壊されてしまい、宇宙から宇宙へとより安全で、平和な理想世界を求めてさまよい歩く次元ジプシーを扱った作品で、この世界ーー地球ーーも一度は旅立つのだが、次の世界で攻撃を受け、この地球に安全の地を求め、理想を追うばかりではなく共に未来へ、平和で安全な世界をめざし、築いていこうということになる。
 核戦争(つまりは戦争)、典夫に対するみどりや広一の描き方、次元ジプシーへの広一の発言等、相当細やかに描いた好編であった。

          ※        ※         ※

 学校生活という日常の中から出発したドラマは、次元ジプシーという非日常の要素が混入され、現実の枷を一度はずし、揺れ動く価値観の中から、人間の心の叫びを通して、人間性というものを捉え直そうとした。

 NHKのこのシリーズの良さは、それが中学生と言う視点ーー良い意味でも悪い意味でも、半分大人で、半分子供のーーで、一貫されている事だろう。視聴者と同レベルで始まったストーリーは、その空間を膨らませて、世界をーー僕たちが考え、感じるあらゆる事物、対象、方向ーーを何とかとらえようとして展開し、奮闘して行った……。

 その中で半分大人で、半分子供だからこそ、主人公は揺れ動きながら、あらゆる角度から人間性と言う命綱を見、つかみ、検討し自らしっかりつかむことにより、浮かびあがってくるのである。

『これ程アニメーション本来の楽しさを持っている作品を見たのは何年ぶりだろうか? この作品を見ていると長い間のロボットアニメや魔法のXXXのおかげで我々の目は曇ってしまっていたのではないかと疑われる程である』と云うのは「ガンバの冒険」について友人が書いた文章だが、このNHKのSF少年ドラマについても、同じような感じがする。SF TV本来の楽しさ、可能性、面白さを、ひさびさに我々は満喫できたのである。

 原作の持つ良さ、その良さを出そうとする制作姿勢、短期連載に徹した密度の高い作品の持つ緊張感……それがこのシリーズの真情であり魅力であった。

 間引きされた赤ん坊が座敝わらしとなり、子供だけに見えて、主人公ユタと知り合う。かわいそうな子供を何とか助けてやろうとする座敝わらし達……彼らが口ぐせにしている『ワダワダアゲロジャガイカ……』、開発される土地からついにどこかへさびしそうに去って行く彼等、ユタが知るその口ぐせの意味ーー遅くまで遊んでいた子が家の戸を閉められてしまって、お母さん、お母さん、僕が悪かった、戸を開けて入れてくれろと言う土地の昔の言葉だというーー、『ワダワダアゲロジャガイカ……、悲しい呪文だナァ』というユタのつぶやき。この世に出られなかったが故に、『ワダワダアゲロジャガイカ』とつぶやき、かわいそうな子供を助ける座敝わらし……「ユタと不思議な仲間たち」でみせてくれたこの悲しさを僕は忘れられない。

 SFの”核”とはこのような中にこそあるのである。僕たちのうれしさ、哀しさ、希望、あこがれ、恐怖、その全ての中に。SFとは僕たち自身の心の真実を結晶化させたそのものなのである。

以上
月刊OUT3月7日号増刊ランデヴー(みのり書房)

1 件のコメント:

  1. <池田憲章Facebook転載≫
    私が商業誌で署名記事を書いたのは、1978年のことで、アニメックがまだマニフィックといってた時に書いたS Fヒーロー列伝の第1回目のウルトラマン、OUT増刊のランデブーに書いた少年ドラマシリーズのS F番組について書いた作品論、竹内博さんに頼まれて書いたマンガ少年の特撮特集本の中で書いた特撮のファンからプロの方への東宝特撮映画の魅力について書いた3つの文章だ。ほぼ同じころに書いて、しばらくして雑誌が出来上がった。だから、どれが最初か、わからなくなってしまった。その中のNHの少年ドラマシリーズについて書いた文章を、池田憲章のアニメメモランダムに、再録してみた。若い23才の気負いが文章にあふれていて、やや恥ずかしいのだけど、S F番組のここをわかってほしいと思っていたその当時の息苦しくなるくらいの気持ちをふと思い出してしまいました。読んでもらえるとうれしい😆。

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